みなさん、犬は好きですか?
今日は、我が家で飼っていた、賢い犬のお話です。
「ムサシ」という名前の、白い雑種でした。
とぼけた顔をしていたので、少しでも凛々しくなるようにと、時々母は黒のマジックで、ムサシ顔に眉毛を書いていました。
ある日の散歩中、リードを嫌がるムサシをかわいそうに思った私は、「ちょっとだけ…」とムサシのリードを外してあげました。
うれしそうに駆け出したムサシは、勢いあまって車道に飛び出し、走って来た車に轢かれてしまいました。
「キャオ-ン!、キャオーン!」
轢いた車は、そのまま走り去りました。
苦しそうに吠え続けるムサシを抱えて、私は近くの動物病院に駆け込みました。
「命に別状はないけど、足は完全には治らないかもしれないね…。」
治療を終えた先生は、私にそう言いました。
しばらくすると、ムサシは歩けるようになりました。
でも、先生が言った通り、ムサシはずっとびっこをひいたままでした。
超即効で部活を終え、ムサシの大好きな缶詰を買って帰り、一緒に散歩に行くのが、私の日課になりました。
「ムサシ、ごめんね。私のせいだね…。」
そう言うと、ムサシはいつもペロリと顔を舐めてくれました。
そんなある日、部活が長引き、慌てて家に帰ると、ムサシは父と散歩に出かけた後でした。
いつもの散歩道を追いかけていった私が目にしたのは、父と一緒に走り回るムサシの姿でした。
「ムサシ!」
私の声に、ビクッ!と一瞬動きを止めたムサシは、思い出したようにびっこをひきながら、私に近づいて来ました。
「おまえ、足、治っとったんか…。」
うれしいやら、あほらしいやら、複雑な思いでそう言う私を、ムサシは申し訳なさそうに上目遣いで見ています。
「でも、治ってよかったなぁ、ムサシ。明日からもう、缶詰は無しや。」
ムサシの名演技は、この日で終わりました。